こんにちは、チョトラです!
「レセプトって、何だろう?」
「診療報酬の請求、実はよくわかっていない…」
と悩んでませんか?
レセプト業務は医療と密接に関わってくるにもかかわらず、大学ではほとんど講義がなく、誰からも教えてもらえません。
医療者になって、いきなり現場で学ばざるをえない事になるでしょう。
そこで、今回は「診療報酬の請求の流れ」を理解するための記事を用意しました!
この記事は以下の人におすすめ!
- レセプトについて知りたい
- 診療報酬請求の流れについて知りたい
- 診療報酬請求に関するビジネスについて知りたい
- 診療後の全体像を把握したい
この記事を読めば、 「レセプトって何ですか?」と聞かれて、正確に説明できる医療者になれます。
レセプトの意味や診療後の報酬の流れを知ることで、日々の診療をより深く考えるきっかけになると思います!
それでは、どうぞ!
保険診療とは、医療保険を利用して治療を行う診療のことをいいます。
医療保険の加入者は、定められた負担分(通常3割)の支払いだけで、保険診療を受けることができます。
医療保険制度について、以下の記事で詳しくご紹介しています。
医療機関が患者さんに保険診療を行うためには、以下の条件が必要になります。
- 厚生労働省の地方厚生局に、保険医療機関として指定を受けていること
- 医師は地方厚生局に、保険医として登録されていること
この2つを満たせば、患者さんが保険証を医療機関に提示することで、保険医療を受けることができます。
保険医療機関には、支払いを受けるに当たっての厳格なルールが定められております。
このルールに従わない保険医療機関や保険医には、ペナルティが科されます。
最も重いペナルティとして、保険指定の取り消し、つまり「保険診療からの退場」措置が行われます。
おもに、取り消し処分になりうる理由については、以下のとおりです。
- 架空請求:実際には行っていない診療報酬を請求すること
- 二重請求:自費診療で行って患者さんから費用を受領しているのも関わらず、保険でも診療報酬を請求すること
- 振替請求:保険診療の内容を、保険点数の高い別の診療内容に振り替えて、診療報酬を請求すること
- 付増請求:診療回数、数量、内容などを、実際に行った診療よりも多く申告して、診療報酬を請求すること
もし、医療機関が保険医療機関指定を外されると、自由診療しかできなくなります。
つまり、これまで通院していた患者さんの診療を続けることができなくなってしまいます。
患者さん側としても、医療費を全額支払わなければいけない病院に、行きたくないでしょう。
さらに、医療機関には5年間分の診療報酬を返還する義務も発生します。
このように、保険医療機関指定取り消しは、病院・地域住民の方々に及ぶ影響が甚大といえます。
では、本題の診療報酬請求の話に移ります。
レセプトとは、保険診療でかかった費用を、保険者に請求するために使用する書類のことです。
このレセプト業務には、さまざまな関係者(ステークホルダー)が登場します。
まずはじめに、それぞれの機関がどんな役割を持つのか?についてご紹介します。
保険者とは、医療保険制度の運営と実施を行なっている事業者をいいます。
私たちは保険者に、毎月の給料から社会保険料を納めています。
代わりに、保険者は私たちへ健康保険証を発行しています。
保険者のもう一つの役割として、レセプト内容の点検があります。
審査支払機関から送付されたレセプト内容に、診療内容の誤りがないか、資格喪失後でないかなどを確認します。
もし誤りがあった場合は、審査支払機関に再審査を請求します。
レセプトの点検で問題がないと判断された場合、保険診療でかかった医療費を審査支払機関へ払います。
審査支払機関とは、「レセプトの審査」と「医療機関への支払い」の2つの業務をもつ機関です。
病院から送られたレセプトを審査し、審査通過したものを保険者に請求します。
その後、保険者は審査支払機関に医療費を払い、審査支払機関はその医療費を病院へ支払うことになります。
審査支払機関には、以下の2つがあります。
- 社会保険診療報酬支払基金 (支払基金):被用者保険に入っている人(サラリーマン)が対象
- 国民健康保険団体連合会 (国保連):国民健康保険および後期高齢者医療制度に加入する人が対象
どちらも医療保険に対する業務は同じです。
「支払基金」「国保連」は、それぞれ47都道府県に支部を持っており、医療機関は所在する都道府県支部にレセプトを提出し、そのレセプトはそれぞれの支部で審査されます。
審査は以下のように、大きく4段階に分かれます。
記載漏れや、保険診療ルールに適合しない項目を、自動で抽出します。
疑義があるものに、マーキングを行います。
審査支払機関の職員が、STEP1でマーキングされたものや、コンピュータが自動でチェックできない項目などを洗いだします。
審査委員がより医学的判断を要する審査に時間を使えるように、審査すべきレセプトの抽出を目的とします。
医師会等が推薦した審査委員の一人が、医学的妥当性を個別に審査します。
診療側、保険者側に偏ることなく、中立に適正に確認します。
Step3の3者で構成される審査委員会で、最終決定されます。
審査はこのように、上の4段階のプロセスをへて行われることになります。
審査の結果、診療内容が不適切だと判断されたものは「査定」となります。
査定になると医療費が減額されてしまうので、実施した医療行為の対価が得られず、病院経営に打撃を与えます。
そのため、医師が懸命に取り組んだ適切な医療行為の査定を防ぐためにも、適切な病名の記載はもちろん、審査側になぜこのような診療内容になったのかを伝えられるレセプトの作成が非常に重要となります。
「これまでに査定されなかった診療が、新しい転勤先でなぜか査定された」経験ってないですか?
この理由は、コンピューターの一次審査のルールが、都道府県の支部ごとにバラバラだからなんだ。
他にも、審査委員の審査にもローカルルールが存在していたり、同じ県でも社保と国保でルールが違うなど、全国的にバラバラな状況なんだ。
これらが、都道府県格差につながっているといわれているよ。
それでは、ここから実際の診療報酬の請求の流れを見ていきましょう。
自己負担率3割の被保険者である患者さんが、10000円の保険診療を受けた場合、以下のような流れになります。
このようにして、患者さんの自己負担金以外の医療費は、医療機関に支払われます。
医療者の皆さんは、月末から翌月初めにかけて、医事課からレセプトのチェックをするよう依頼されてませんか?
実はこれには、レセプトのスケジュールが大きく関係しています。
患者さんが、4月1日に、病院で保険診療を受けたときのスケジュールは、以下になります。
- 医療機関は、当月分の請求を翌月10日までに提出
- 審査支払機関は、医療機関より提出されたレセプトのチェックを25日までに行う
- 審査支払い機関は、適正と見なした請求分のみを翌々月10日までに保険者に請求
- 保険者は、受け取った請求に対して1週間程度で処理を行い、翌々月20日前後に審査支払機関に支払いを行う
- 審査支払機関は、保険者より振り込まれた報酬(受診料)を2~3日程度で医療機関に支払う
このようなスケジュールで、患者さんの自己負担分以外の医療費は、医療機関に支払われます。
ここまで、レセプトによる診療報酬の請求の流れ、及びスケジュールについてご紹介しました。
実はこのサイクルの中には、様々な問題があります。
2つほどご紹介したいと思います。
患者さんからの3割分の医療費についてはその日に支払われますが、残りの7割は約2ヶ月ほど入金が遅れます。
さらに、診療報酬請求の内容に問題がありレセプトの査定や辺戻が重なると、病院経営の資金繰りに深刻な影響がでます。
こういった特徴が、病院・クリニックの経営状況の把握を難しくしていました。
これらの問題に対し、主に2つの側面から課題解決をすべく、新たなビジネスが生まれています。
診療報酬ファクタリングとは、医療行為の対価として審査支払機関から診療報酬を受け取る権利を、第三者に譲渡することで早期に資金化できる金融サービスです。
いわば「診療報酬の前払いサービス」といえます。
この仕組みを利用することで、診療報酬を受け取るタイミングは以下のようになります。
このように、銀行からお金を借りることなく資金繰りを改善できるのは、大きなメリットといえます。
査定・辺戻の可能性や、入金にタイムラグがあるという特性は、医療経営を困難にします。
それはまるで「バックミラーに映る景色を見ながら、車を運転している」ようなものです。
運転中に「どの道に進めばよいか?」「事故を避けるためにどうしたらよいか?」と判断するためには、きちんと前を向き、フロントガラスからリアルタイムに入ってくる情報を集めなければなりません。
医療経営でもまったく同じです。
「今何が起きているのか?これからどうすればいいのか?改善策はどうするのか?」という判断をするためには、売上数値、来院患者数などの重要な経営指標をリアルタイムに把握することが必須です。
近年、レセプトデータをアップロードするだけで、瞬時に経営指標をみえる化する様々なITサービスが生まれてます。
これらを使うことで、医療経営の改善施策を、検討・実行することが容易になります。
2011年に、レセプトはオンライン請求が原則義務化されました。
その結果、レセプトの98.5%は電子化され、全国統一的なコンピューターチェックもできるようになりました。
一方で、各都道府県支部において独自にルールを設定することもできていたため、それが支部間の審査結果の不合理な差異の一因になっていました。
2021年3月、審査支払機能の在り方に関する検討会にて、各支部にあるローカルルールを原則廃止、集約する方針を提示しました。
その他にも、支部間の審査結果の差異を見える化する自動レポーティング機能などの開発が進んでおります。
2022年10月には、都道府県支部を廃止し、集約拠点を再編する組織改革が行われました。
都道府県支部は廃止され、全国14か所の「審査事務センター・分室」という電子レセプトの審査事務の集約拠点と、「審査委員会事務局」という拠点に再編されました。
このように「ICT を活用した審査事務の効率化・高度化」と「審査結果の不合理な差異の解消」の取り組みは、着実に進んでいるといえます。
今回は診療報酬の請求について、全体の流れ・問題点・対策などを解説しました。
ポイントをまとめますと、次の通りです。
- レセプトとは、保険診療でかかった費用を、保険者に請求するために使用する書類のことである
- 保険者に請求する前に、審査支払機関にてレセプトの審査が行われる
- レセプト業務にまつわる様々な課題に対し、国の動きが活発化し、ビジネスチャンスが生まれている
正直な話、レセプトは「めんどくさい書類作業」と思う対象以外の何物でもありませんでした。
医学のことには興味があっても「お金の話」には興味が持てなかったのです。
しかし、適正な医療をしたのにきちんとしたレセプト業務をしなければ、医療機関は対価を得られずに、持続可能な医療を提供できなくなってしまいます。
レセプトは「日々真摯に提供されている診療が、お金の面で正当に評価されるための手続き」だと、この記事を書きながらあらためて再認識しました。
これからも医療経済のことをしっかり考えながら診療したいと思います。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!